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Lynch症候群関連の大腸癌

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近年注目されてきたLynch症候群について

雑誌:New England Journal of MedicineClinical practiceから 2018

Mayo ClinicFrank A先生

 

Clinical problem

 

大腸癌はアメリカでは4番目、そのうち3%Lynch症候群によるものとされる。

Lynch関連腫瘍として、子宮内膜癌、小腸癌・腎癌・胃癌・卵巣癌・肝胆道癌がある。

その亜型として、Muir-Torre症候群(皮脂腺腫やケラトアカントーマを合併)、Turcot症候群(膠芽腫)がある。

 

Lynch症候群の大腸癌は右側結腸に多く、同時性・異時性癌が多く、未分化型、特徴的な病理所見(髄内増殖・腫瘍内リンパ球浸潤)がある。Mismatch repair(MMR)タンパクが欠損し、マイクロサテライト不安定性を示す。

 

また、若年で予後が比較的良い。Mismatch repair腫瘍はStage II:20%、 Stage III:11%、Stage IV3.5%を占める
転移再発癌は通常の癌と同等ないし、予後が悪い。

 

Mismatch repair遺伝子としてMLH1, MSH2, MSH6, PMS2EpCAMMSH2の不活化に関与)がある。MLH1MSH2Lynch関連腫瘍の60-80%を占める。

残りはMSH6PMS2で、EpCAMはごくまれ。

MSH2は子宮内膜癌などの腸外腫瘍が多いMSH6は発症が遅い。

Mismatch repair欠損MLH1promoterのメチル化でも起こり、散発性癌にも認め、散発性は高齢女性に多い。

 

Strategies and evidence

診断と評価

 

2親等までは癌罹患歴を確認する。アムステルダム基準IIとベゼスダガイドラインがあり、アムステルダム基準II50%の患者しか満たさない。

 

Mismatch repiar欠損の検査

 

MLH1PMS2の同時欠損は生殖細胞系の変異と、散発性腫瘍の可能性どちらもある。MHS2MSH6PMS2のいずれかの欠損は生殖細胞系の変異による。

MLH1PMS2の同時欠損とBRAF V600Eの変異はMLH1のメチル化を示し、Lynch症候群でなく、散発性大腸癌を示す。

生殖細胞系の変異がなくても、腫瘍自体にはMismatch repair欠損の場合があるので、生殖細胞系の遺伝子検索だけでは不十分

 

家族の検索

 

Lynch症候群と診断されたら、1親等から検査をしていく。

まずは血液検査。変異があれば50%子供に遺伝する。

 

変異がない人は通常のサーベイランスでよい。

変異の保有者は、20-25歳から、もしくはそれ以下の年齢で大腸癌発症者がいれば、その年齢の2-5年前から1、2年ごとに下部内視鏡検査をする。

MSH6とPMS2変異保有者は30-35歳から1、2年ごとに下部内視鏡を。

 

手術治療

 

Lynch症候群が疑われたら、生検の段階でMismatch repairタンパク発現検査をする。異時性大腸癌は10年で16%、20年で41%30年で62%で発生する

結腸亜全摘と比較すると、病変の一部の結腸をとる手術では、癌の罹患率が3.4倍(106か月の観察期間では生存率に差なし)。

60-65歳以上の肛門機能の悪い患者であれば、やや侵襲性を押さえるものの、それ以外では回腸直腸吻合をおこなった方が良い。

その後のサーベイランスは6-12か月毎に残存直腸を評価

 

化学療法・免疫療法

 

Stage IIは化学療法なし。

Stage IIIFOLFOXCAPOXレジメンの術後補助療法が行われるべきで、Mismatch repair欠損の方が予後が良い

Mismatch repair欠損ではneoantigenがあり、腫瘍内リンパ球浸潤をきたしているが、免疫チェックポイントの過剰発現によりT細胞が腫瘍を駆逐できない。

免疫チェックポイント阻害薬のペンブロリズマブでは31-52%の奏効率があった。

CTLA-4薬とニボルマブの併用はニボルマブ単剤より予後が良い報告あり。

 

よくわからないところ

 

MSH6PMS2MLH1MSH2より多いのに、浸透度が低いのでよくわかっていない。乳がんリスクが通常の2倍になるという報告もある。

免疫チェックポイント阻害薬の効果は転移性癌に限られている。現在Stage IIIFOLFOXに抗PD-L1抗体薬を使用した臨床試験が進行中。

 

ガイドライン

 

種々のガイドラインで新規大腸癌にはMismatch repairもしくはMSIを測定することが推奨されている。NCCNでは転移性大腸癌の2nd line以降でのペンブロリズマブかニボルマブを使用を推奨している。

 

結論

 

生殖細胞系の検査を行うときには遺伝専門家にコンサルトする。

診断がついたら結腸亜全摘。

術後は6-12か月毎に内視鏡を。

Lynch症候群と診断されたら、1親等の家族から検査を開始する。

転移性大腸癌は標準治療だが、Stage IIIなら免疫治療の臨床試験に参加を。

 

感想

 

当たり前ですが、遺伝子変異によって、発症時期・予後・サーベイランスが異なります。

また、日本でもペンブロリズマブの保険適応がMSI-Hの固形癌に拡大されました

生殖細胞系の変異だけでなく、MSI-Hを示す散発性腫瘍が存在すること。つまり、Lynch症候群でなくてもペンブロリズマブ使用の可能性がありうる。

結腸亜全摘はまだ日本では保険適応ではありませんが、大腸癌患者の3%であったとすれば、相当数の結腸亜全摘しないとダメになりますね…

 新規発症大腸癌で、全例検査が推奨されるとなるとちょっと困ります。費用面であり、実際にLynch症候群であった場合のフォローなど…

 

20194月から遺伝子パネル検査が保険適応になるが、混乱が起こる可能性が高いですね。正直全然知りませんし…

臨床遺伝専門医とれるように準備しておくか?

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